仙界/双竜 > 闇に舞う蝶 3
-- Update :2005-10-11 --
?年後 / 黒蝶、月璃、木蓮、黒竜、星華、千鴉
迂闊だった。
あの強さは一体何だ。予想の範疇を超えている。
ぎりぎりのところまで追い詰めて、
此方の勝利はほぼ確信できていたのに。
最後の最後でしてやられた。
あの身体の何処にまだそんな力が残っていたのか。

決して見くびっていた訳じゃない。
仮にも相手は高位の竜で、
隙をとられないよう術にも細心の注意を払っていた。
威力は確かに大きいが経験上では此方の方が上。
戦略を凝らせば勝てない相手じゃなかった筈だ。

人質を取ったのは保険のつもりだった。
念には念を入れて。逃げられないようにするため。
案の定向こうから食いついてきて、状況的にも圧倒的に此方が有利に動いていた。
なのに一体何処で間違ったのだろう?

「―――だから言っただろう、手を出すなと」
「……黒、竜サマ……」
「随分派手にやったようだな。傷はどうだ?」
「………。僕を、責め…マス、か?」

主は何も答えずこちらに近寄り、掌をかざしてきた。
柔らかな焔が生まれ見る間に傷が癒えてゆく。
温かい。呼吸が随分楽になった。

「手酷くやられたようだが。これに懲りたらもうあれを相手にしようなどと思うな」
「何故……そこまで庇い立てすルのですか?あの裏切り者を」
「庇うつもりなど無いが……
 下手に手を出したところであいつを討ち滅ぼすのは無理だ。
 俺が行ったところでそれは同じことだろう」
「……黒竜サマでも?そんな馬鹿な」

自分が知っている中で、主は誰よりも強い存在だった。

「あれの力は俺が一番よく知っている。過大評価も過小評価もしちゃいないさ。
 確かに技術は拙いし経験も浅い。……が、その分厄介でもある。
 お前もそれを身をもって思い知っただろう」
「………」
「言ってみれば手負いの獣と同じだな。追い詰めれば追い詰めるほど逆に底力を発揮する。
 ……自分の身を顧みる戦い方なんてしやしないんだ」

「―――このまま、放置しておくと?」
「宮主は断罪を望んではいない」
「しかし……」
「天から離れたこと自体が既に、あいつにとっては大きな苦痛だ。
 例えそれが自ら望んだことであったとしてもな。
 ……どの道おそらくこちらから手を出さない限り、向こうから何か仕掛けてくることもないだろう。
 今はとにかく時期が悪い。暫くは成り行きを見守るさ」

未だ納得できかねない部分もある。
しかし主がそう言っている以上、もはや従うしか術はない。

「正直、俺にも判らなくなってきた。
 ……一体どうするのが正しい道なんだろうな」

主の表情は見えない。
彼の中にある感情が一体どのようなものであるのか。
きっと一生自分には理解できることもないのだろう。
続きます。
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