少し前 / 月璃(白竜)、黒竜、金烏(千鴉)
長い長い夢を見ていた気がする。
どんな夢だったか思い出そうとしても、それはするりと記憶の容れ物から流れ落ちてゆき、決して叶うことはない。
いつもと同じ。いつも見ている怖い夢。それと同じ感覚。
だけど今は不思議と怖いという感じはしない。
何故だろう、今はむしろ、酷く泣きたくなるような満たされた安堵感さえ覚えている。
夢と現の狭間でゆらゆらと漂いながらそんなことを考えている。
もうどれくらい此処でこうしているのか判らない。
………………。
光が見える。
いつから在ったのだろう、あの光は。
あたたかく懐かしい光。それを見ていると胸が締め付けられるように恋しくなる。
そうだ、行かなくちゃ。あの光の下へ。僕の還る場所へ―――
―――ゆっくりと、意識は覚醒してくる。
初めは薄ぼんやりとしていておぼろげな存在でしかなかったものが、次第に収束し確かなものへと変わってゆく。
薄らと目を開ける。
しかし視力はすぐには回復してこない。
しばらくして漸く、瞳に映っているものが自室の天井だということが解った。
それでやっと自分が眠っていたのだということを理解する。
だけど目が醒めてもまだ身体は動かない。
自分の身体はこれほどまでに動かしづらいものだったのだろうか。
身じろぎしようと暫く頑張ってみて、やっと指が僅かに動いた。
同時にそこに触れていたものがぴくりと反応する。
指先に伝わってくるぬくもりがある。
その正体を確かめたくて、もう一度指を動かす。
今度ははっきりと確かな感触で、それはこちらの指を握り返してきた。
「――――――っ」
声を出そうとしても、何故か上手く出てこない。
代わりに首をどうにか捻ってそれが居るであろう方向に顔を向ける。
まだ視力はちゃんと戻っていない。
輪郭をおぼろげにしか、見ることができない。
「…………闖……?」
掠れ気味の声で、呼びかける。
彼は口を開いて僕の名を呼んだ。
応えてくれたことが嬉しかった。
当たり前のことなのに、それが泣きたくなる程に
嬉しくてたまらなかった。
了。
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