?年後 / 黒蝶、月璃、木蓮、黒竜、星華、千鴉
手を出すなとは言われていた。
彼の主と白竜の間には無二の繋がりが在り、そう容易く切り離せるものでもないことも知っている。
しかしだからこそ、尚更その裏切りは許せるものではなかった。
主にどう思われようと彼はアレを野放しにしておくつもりなど無い。
力においても格においても、彼よりも白竜の方が遥かに上だ。
しかし技術的な面において彼には並々ならぬ自信がある。
数千年もの永きに渡って力を封じられ、安穏とただ時を過ごしていただけの相手など怖るるに足りない。
「大人しく上に引っ込んでいればイイものを」
白竜は完全なる天の属性だと聞いている。
天と地は相対するモノ。天属性にとって地上は鬼門と呼んで差し支えない程、あらゆるものが負の方向に働く。
それなのに何故地上に居続けているのか理解に苦しむ。
本来の力を出し切ることが出来ないばかりか、その身にも少なからず悪影響を及ぼしている筈だ。
「まア、だからって容赦するつもりもナイけどサ」
それにしても、と彼は空を仰ぐ。
見事にまあここまで結界を張り巡らせたものだ。
彼ら霊獣には気というモノが重要な位置を占めている。
力が強ければ強いほどそれもまた大きなものとなり、輝きを増す。
尤も術に長けた者であればそれを目立たないようにする術も心得ているが。
白竜の目立ち過ぎるほど目立っていた気は、ある日を境にぷっつりと感知出来なくなっていた。
命を落としたのではない。仮にそうであれば主が真っ先に気づく筈であるから。
地上に降りた後も暫くの間は、多少隠されてはいたものの雑魚どもにでも辿ることが出来ていた。
結界が強められたのか。
唐突にそうなったことに釈然としなかったが、先程耳に入れた内容から漸くそれにも合点がいった。
全く気を辿れなくなったおかげで後を追うのにも難航していると聞く。
今彼がこの場に居るのはほんの偶然に過ぎないが、この機会を逃すつもりはなかった。
時は日暮れ。彼の視線の先には一組の親子連れが居る。
「コンニチワ」
にっこりと笑み掛ける。
元々童顔気味の彼は初対面でも警戒されることは少ない。
「久しぶり。……それとも、僕のコトなんて憶えちゃイナイかな」
「え……と?」
「そうダヨね。君はいつだって周りのことなんて見ちゃいなかった。
何たって宮主様に愛でられてた、トクベツな存在なンだし?」
瞬間、相手の表情が強張る。
その僅かに生まれた一瞬の隙を、彼は見逃さない。
母親の手の内から子供を強引に奪い盗る。
何が起きているのか即座に理解できていない相手に対し、彼は不敵に微笑んだ。
突風と共に黒い蝶の群れが彼を包み込む。
喚び寄せた僕たちに紛れ、彼は手に入れた小さな獲物と共に異なる空間へと跳躍した。
黒い波の向こう側に垣間見えた白竜の表情は、彼に十分な満足感を覚えさせてくれた。
続きます。
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