3年後? / 黒竜
嫌な胸騒ぎがして滅多に来ないその場に足を踏み入れてみれば、案の定そこには惨惨たる状況が広がっていた。
洗練されていつも手入れの行き届いていたその部屋は今はこれでもかという程に散らかり、甘い芳香の代わりに血臭が立ち込めていた。
優雅に艶然と微笑んでいた部屋の主は、もはやただの肉塊と化して彼の足許に転がっている。
「――――参ったな」
苦虫を噛み潰したような顔をして彼は独白する。
こうなる事を全く念頭に入れて置かなかった訳ではない。だが……
見る者が見れば、誰が手を下したかなど一目瞭然だろう。そうするだけの理由も、力も、当人には備わっている。
幼子が玩具を散らかしたかのようなこの不器用な有り様も、あの未熟さを考慮に入れれば容易に想像できる。
(……嫌いじゃないんだがな)
随分と変貌してしまってはいたが、変わる事のないあの無垢さを、彼は気に入っていた。むしろ以前よりも好感を抱いているといってもよい。
(どこまでも不器用な奴……)
いずれ彼にも遅かれ早かれ命が下る。
他の者になど仕留める事など出来る筈が無いだろうから。
それが定めなら、彼は受け入れるまで。
だが、苦い思いは決して消えることは無いだろう。
「―――残念だよ。心底ね」
彼は目を閉じて一人憂う。
目の前に横たわる主の骸になどではなく、自らが手を下さんとする、その対象に向かって。
月宮主暗殺事件。
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