3〜4年後? / −、月璃
そろそろ陽も傾きかけてきた。
この辺りで休めそうな場所に目星をつけておかないと、最悪立ったまま寝るという事態にも陥りかねない。
この先どのくらい進むことになるか分からないのだ。休息は確り取っておかなければならない。
(爺さま……本当にこんなとこ通ったのかね……?)
息を切らしながら、歩を進める。
突然、視界は開けた。
いきなりぱっくりと開いた空間に、彼はつんのめりそうになる。
顔を上げた彼の目に飛び込んできたのは、あの祖父の絵と違うことなき同じ光景―――
「………ほ、ほんとにあった……!?」
磨きぬかれた鏡のように、周囲の情景を映し込んでいる水面。
周囲には見たこともない植物が、人の手の入れられることなく、それでいて見事な調和で至る所に植わっている。
その場に尻餅をついたまま、暫く彼は動くこともできずにただ眺めていた。
「―――誰?」
突然声を掛けられ、彼は素っ頓狂な声を上げる。
こんな場所で人間に遭遇するなど、端から彼の頭には無かったのだから無理もない。
その人物は水の中の浅い所に、衣服を身に纏ったまま佇んでいた。さして驚いた様子でもなく、ただ凝っと彼の方を見つめている。
「……参ったな。こんなとこ誰も来るわけないって思ってたのに」
白く細い、透き通るような肌。水に濡れた黒髪はやや短めで、憂いを帯びたその瞳は金色をしていた。
長旅で薄汚れてよれよれの格好の自分とは対照的で、穢れひとつ見当たらない――しかし常識的に考えれば彼の方がまともなのだ。この場所では。
目の前の人物ときたら、そう、それはまるで―――
(………天人、さま………?)
続きます。
Copyright (C) 2020 kohituji. All Rights Reserved.