?年後 / 黒蝶、月璃、木蓮、黒竜、星華、千鴉
「竜?竜って、大きくて空を翔ぶあの?」
「そうそう。その竜がさあ、此処ら近辺で結構目撃例があったりするんだよな。それもここ最近で何件も」
「それってどの付近?」
「まあ市中では見ないわな。
北の方に山があるだろ、奥深くまで入れば人気も無くなるんだが、そこらあたりで……らしいぜ」
ふうん、と相槌を打ち何事か考えるように茶をすする、聞き手の方は年若い男。
多少周囲に対して浮いている風情から余所者と見てとれる。
場所は町外れにある茶店。
暇を持て余していた話好きの町の男にとって、見慣れぬ若者は格好の相手だった。
相手が興味を持ったことに男は気を良くする。
実のところこの竜目撃談は然程大きな話題性を持っていた訳ではない。
町なかでも多少噂になっている程度だ。
実際に竜を見たという者も居るには居たが、大抵の者が夢か幻だろうと取り合わなかった。
「その竜ってサ、姿はどんな奴?色とか」
「俺も実際に見た訳じゃねえんだけどよ、確か銀とか白とか……そんな感じだったかな。
そうそう!見たって奴の中にはその竜が人間に化けたって言い張る奴も居るんだよ。なんでも娘の姿にーとか。
いやそいつもいい加減モーロクした爺さんでよ、真偽の程は定かじゃあねえんだが」
ガハハハと豪快に笑い飛ばす男は、若者の目が剣呑な色を帯びたことに気づくことはなかった。
「そういえばサ、もう一つ聞きたいことがあるンだけど」
「おう、何だ?」
「最近この町に若い女が来たりしなかった?」
「女……?いやあ、どうだろ。見知らぬねーちゃんが一人うろうろしてたら目立ちそうなモンだがなあ」
うーんと腕を組む男に、空いた器を下げに来た店の女が助け舟を出す。
「女一人旅じゃあないけどさ、ほら、若い夫婦なら居なかったっけ」
「あ……おおそうだそうだ!確か子連れだったよな。まだこーんなちっせえ赤ん坊連れた」
「……子連れ……?」
「もしかして兄さんの探し人か何かかい?」
「ま、そんなトコ。ありがと、助かった」
にっこりと笑んで若者は席を立つ。
「じゃあ僕そろそろ行かないと。ご馳走サマ。茶、美味しかったヨ」
「あ、お客さん御代は」
「やだなあ、さっき払ったでしょ?」
「あれ、……そっか。嫌だアタシったら」
バツが悪そうに、そそくさと彼女は奥に引っ込む。
無論彼は金など払っていない。
この程度の誘導なら造作もないこと。全く人間どもときたら下等で扱い易い。
店を出、先に広がる町を見渡す。
さほど大きくもないが人口はそれなりにありそうだ。
「巧く隠れたもんだネ、白竜」
立ち寄った茶店で話を聞いていなければ、知らず通り過ぎるところだった。
それ程気配は完璧に消されている。
しかしもう情報は手に入れた。
範囲が特定された以上、捜し出すのは時間の問題だ。
「……そう、子供なんて居たんだ」
これは思わぬ収穫だった。
自らの有利を確信し、彼は自然笑みをこぼす。
季節外れの蝶が一匹、ひらひらと空を舞っていた。
黒竜の配下の黒蝶。人界にて暗躍中。
続きます。
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