3〜4年後? / −、月璃
「そういえば何処か行く予定とかあるの?さっき急いでるようなこと言ってたけど」
「………」
少しだけ、相手の顔が曇ったのに彼は気付く。
「……別に。当てなんか特にない。ただ、ちょっと、……追われてるからさ」
「え、追われ……?」
何やら物騒な展開になってきた。それでは、あの身体中の傷は―――
「大人しく捕まるつもりなんてないからさ、返り討ちにするか逃げ延びるか、選択肢はそれだけなんだよ」
「何で追われてるのかとか、聞いてもいい?」
「………。罪を、犯したから」
そう答えて静かに笑む相手の瞳は、しかし咎人のものには見えなかった。
「もう天には帰れない。行くべき場所もどこにも無いけど。
捕まったら――そうだな、殺されるか拘束されるか。何にせよ楽しいことにはならないだろうね」
「ずっと一人で逃げ続けるつもりなのか?その……知り合いとか助けてくれるような人は?」
月がどれ程の力を持っているのか彼には分からないが、一人きり孤独に逃げ続けるには多大な精神力を要するだろうこと位は想像がつく。
吹けば飛んでしまいそうなこの相手に、それに耐えられる程の強さがあるとは彼には思えなかった。
「―――知ってる人なら結構居るけど。
……この世界では僕はもう死んでしまった存在だからさ、そうそう会いに行くわけにもいかないんだよね」
「この先の――逃げてそれから後のことは?何か考えてるの?」
「何も。……どうすればいいのかなんて正直僕にも判んないよ。
ただ、僕にも譲れないものがあるから。―――何が何でも捕まる訳にはいかないんだ」
心配だ、とでかでかと書いたような彼の顔を見て、月はくすりと笑った。
「あんた、僕のこと弱そうとか思ってるだろ?」
「誰が見てもそう思うんじゃない?そんな白くて小さいのにさ」
「平気だよ。黒ならまだしも――そこらの雑魚程度ならなんとかなる。
……まあ、空気が合わないのとかまだ術の扱いやらに慣れてないしで、多少は手こずったりもしたけどさ」
「多少」位であんな風に倒れる程の怪我を負うものかとそう反論しようとした彼だったが、相手の表情を見てその言葉を飲み込む。
先程までとは一変したその張り詰めた視線は、洞の外へと向けられていた。
「―――来た」
「え……来たって、何が?」
「追っ手だよ。……残念ながらもうのんびり休んでる時間は無いみたいだね」
少々疲れたような顔で苦笑する。
不穏な風が吹き始め、周囲に生い茂った草もざわざわと騒ぎだした。
続きます。
Copyright (C) 2020 kohituji. All Rights Reserved.