3〜4年後? / −、月璃
木々の間を割り河を越え、彼の身体は風に乗って飛ばされてゆく。
行く手に大きな岩肌が見え、彼はそこに勢いよく叩きつけられることを覚悟した。
……が、痛みが彼の身を襲うことはなかった。
風の塊が緩衝材となって岩との間の衝撃を和らげたのだ。
「―――くそっ、何だこれ!」
身体の自由を取り戻した彼は元の場所へ戻ろうとするが、またしても風に阻まれ前に進めない。
他の方へ向かうことは難なく出来るのに、戻ることだけが叶わない。
まるで風が意思を持っているかのようだった。
(一体何してくれやがったんだ、あいつ……)
そうこうしている間にも木々の悲鳴は悲痛さを増してゆく。
鳥達がばさばさと、何かの気配を察して飛び立っていく。
不意に周囲は奇妙な静けさを取り戻した。
そしてそれと引き換えに、彼は近付いてくる地響きに気づく。
それが彼の背面にまで迫った直後、衝撃と共に黒く巨大なモノが数体、彼の居る岩を飛び越えてその姿を現した。
「―――――!?」
狼にも似た、しかし狼よりも数倍大きく凶暴そうなそれらは黒い炎をその全身に纏っており、岩に縛り付けられているちっぽけな人間のことなど歯牙にもかける様子なく、ただ一点を目指して突き進む。
(………あ、あれが雑魚……?)
どれだけの力を持っているかなど知らないが、あんなのに襲われたら彼よりもちっぽけなあの白い生き物などひとたまりも無いだろう。
そうは思っても身体を動かすことはできないまま。
一体何が起こっているのか彼に理解できる術も無く、ただ呆然と眼前で繰り広げられていることに目を奪われていた。
黒い狼たちが突進してゆく。その先にあるのはつい先ほどまで彼が居た、洞。
突如として大きな水柱が立ち昇る。……ああ、あれは沼があった場所だ。
水の塊は巨大な鳥へと姿を変え、襲い来る狼たちの前に立ちはだかる。
狼たちが怯んだ一瞬の隙をつき、空中に現れ出でたのは純白で長大な伝説上の生物―――
(―――竜―――?)
竜が首を一振りする。
前触れも無く雷雲が立ち込め、ごろごろと雷鳴が轟く。
狼たちは僅かに怯えの色を見せたが、それでも尚退こうとはしなかった。
竜は狼たちを睨み据え、そしてもう一度その首を振る。
目を灼く稲光と共に、凄まじい轟音が響き渡った。
天に昇る前に、竜は少しだけ首をもたげ、彼の居る岩場に一瞬顔を向けた。
その金の瞳は、先ほどまで隣に居た人物のそれと同じ輝きを持っていた―――
続きます。
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