「金白」の直後 / 金烏
―――本当に此処を出て行くつもりか
慣れ親しんだ声が彼に問いかける。
少し前まで”声”は、彼にとっての全てだった。彼を受け入れようとしない世界に於いて唯一縋る事の出来る存在だった。
―――偽りの肉体を手に入れたところで、所詮お前は異形に過ぎぬ。自分が世界から見捨てられた存在だということを、忘れたわけではあるまいに
どれ程蔑んで見られていようと、此処は彼が存在することを赦してくれる。そういう場所だった。
地にある者が夢と憧憬する天上の楽園。そんな中にも澱の滞る場所がある。
不浄ゆえに存在すらも禁忌とされるその場所で彼は生まれた。
力も無く脆弱で醜い異形のモノである彼は、この不浄の地の外で生きることを赦されない。
しかし闇に棲む者は光に焦がれる。
彼もまた幾度と無く光溢れる世界に臨んだが、決して受け入れられることなくこの地に舞い戻ってきた。
「それでもオレは」
彼は言う。
もはや以前の嗄れた声などではない。
「見つけたんだ。生きてゆく意味を」
怖れることなく嫌悪することなく、彼の体に触れてきた。
何も無かった彼に名前と力を与えてくれた、あの白い生き物に自らの全てを捧げようと。
他の誰に認めてもらえなくてもいい。ただ、アレの傍に居られれば。
害し傷付ける者があれば排除し守り抜く。それだけの力を、今はもう手に入れた。
―――名は何という
既にもう去る決意を固めた彼に、”声”はもう留めることをしない。
―――お前の新しき名は、何という?
「………金烏(キンウ)。」
その名を呼んでくれたただ一人のために、彼は新たな世界へと足を踏み出した。
金烏の巣立ち。
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