現在 / 月璃
「明日、ガルスに発つからさ」
久々に顔を見た相棒に、最初に告げた言葉がそれだった。
言うべきことはもっと他にもあるだろうが、どれも上手く出て来ない。
まともに視線を合わせることも躊躇われ、部屋に入ってきたのを確認しただけですぐに目を逸らす。
見えていないだろうことは理解していたが、感覚的にどうも落ち着かなかった。
長期間殆ど身体を動かすことをしていなかったため、海を渡っての長旅は応えるかもしれない。
だけど一刻も早く此処から抜け出し、元の生活に戻りたかった。
全く同じにというのは不可能であったとしても。
「……ごめん、長い間縛りつけちゃって」
厳密に言えば、この期間中の彼の行動は制限されてはいなかった。が、結果として一月もの間身動きが取れなかったのが現実。
その間どんな風に過ごしていたのか、何を思っていたのか。訊ねることなど出来はしなかった。
相棒が口を開く。
何を言ったのか上手く聞き取れず、聞き返そうとして顔を上げたら突然に腕を引っ張られた。
そのまま強く抱き竦められる。
「………っ」
予想だにしていなかったその行動に驚いてしまって、すぐに反応を返すことができない。
以前は、こういったことも珍しくなどなかったのに。
距離が生まれてしまってからどれだけの日が過ぎたのだろう。
他人に触れられる事が嫌いだった。
自分とは違う人間と接触することで、生まれてからずっと抱いている違和感を思い出してしまう。
なのに何故、どうして今、このぬくもりをこんなにも手放したくないのだろう?
自分にはそんな資格なんて無いのに。
「―――帰ろう、ガルスへ」
震えそうになる声を辛うじて抑え、もう一度口にする。
立ち止まっている暇は無いんだ。
「天の星月」のその後。
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