今まで / 月璃
生まれた時に最初に向けられたものは祝福や歓びの言葉などではなく、戸惑いと悲嘆の感情だった。
正常に生きてゆくこともままならない。そんなひ弱な命を誰もが持て余す。
腫れ物のように扱われ人との間には自然距離が生まれた。気がつけばいつもいつも、独りきりで過ごしていた。
迷惑をかけないように、我侭を言わないように。
物心ついた時には既に周囲に対して気を使っていたように思う。
世話をしてくれる人の顔ぶれはしょっちゅう変わる。優しい言葉をかけられても、それが永くは続かないということをやがて悟るようになった。
独りでいることが多かった。
心細くてたまらなかったけれど、これ以上自分のせいで誰かの手を煩わせてはいけない。
自分はいらない子なんだから。
ある日守り役がつけられた。
それまでの世話係とどういう違いがあるのか判らなかったが、大した差はないように思えた。いずれ離れていってしまうのなら誰が傍にいようが関係ない。
適当に愛想よく振る舞う。そうしておけば何も問題など起きるはずがない。内心では寂しさが募ってゆくのだが、表に出さないようにするのももう慣れたものだった。
なのにあの翠の目に見つめられると、全てを見透かされてしまっているような感覚に陥いる。
口数の少ない男だった。
元々この国の人間ではないらしいので、言葉が通じなかっただけなのかもしれないが。
愛想が良いということも無かったし何を考えているのかもよく判らない。
ただ、気づくと傍に居た。
それが仕事なのだから、他にするべきことも無いから。理由はどうであれ、独りじゃないということが嬉しかった。
嬉しいと感じることが次第に増え、そして漸く、笑うことができるようになった。
生きる道を模索している月璃。
続きます。
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