10年前 / 月璃
「―――あ、そういえばもうすぐお誕生日じゃないですか。大変っ」
「…おたんじょうび?」
「はい、月璃さまがお生まれになった日です。お年がひとつ大きくなりますよねえ?」
「ユエよっつになるよ。…おたんじょうび、たいへんなの?」
「だってお祝いしないと。折角のおめでたい日なんですしね」
「おめでたい?…ユエがうまれたのは、いいことなの?」
「……え?」
「だってユエはあとつぎじゃないし。こどももうめないの。
やくにたてないこなの。それでも、いいこと?」
「月璃さま……」
ごめんなさい、こまらせるつもりはないの。
ユエはやくにたたない子だけど、いい子でいたら父さまも母さまもきっとよろこんでくれるよね。
だから苦しいのや痛いのもがまんする。
父さまや母さまにあえなくてさみしくても、がまんする。
*
「ねえ月璃さま、何か欲しいものとかありますか?」
「……。ううん、なにもない」
「えー?うーんと、じゃあ、したいこととか。やってほしいこととかでも!」
「…おもいつかない。なんでそんなこときくの?」
「だって今日はお誕生日ですよ?月璃さまに楽しく過ごしてもらいたいんです」
「……ユエがたのしいと、メイファはうれしいの?」
「勿論!美花は月璃さまのことだーい好きですもの」
「……えと、じゃあね」
「はいっ」
はなれていかないで
ユエのこと、嫌いにならないでね
*
―――なんて事をしてくれたのですか。貴女は自分の立場というものをわきまえているのですか?ご多忙の当主や御夫人の手を煩わせるなどもっての他。尚且つ御子の具合にも気づかず熱を出させるなど……。あの子は普通の身体ではないということは、最初に念を押しておいた筈です。
―――だけど、月璃さまはまだ四歳なのですよ?一番親に甘えたい年頃なんです。
―――この天家の直系に生まれた以上、そういった甘えは早いうちに切り捨てておくべきなのです。それはあの子のみならず他のお嬢さま方とて同じこと。皆、そのようにして育てられました。
―――だからといって、寂しくない筈がありません。あんな小さいのに、何故あそこまで
―――その寂しさを紛らわせるのが貴女方の仕事でしょう。
―――……でも、やはりご両親の傍に居るのが一番かと思いますし。それが無理ならせめて、一目だけでもお会いできたらと……
―――話になりません。どうやら人選を間違えたようですね、早々に荷物をまとめなさい。
―――そ、そんな……
―――これ以上の不始末は、貴女のみならず貴女の家にも関わってくるということを、しかと覚えておくことですね。
*
「こんにちは月璃さま。今日からあなたのお世話をさせていただくことになりました。宜しくお願いしますね」
「………?メイファは…?」
「彼女はあなたのお相手には少々不適切だと判断されましたので……」
「…ユエが、わがまま言ったから?メイファわるくないよ、ユエがいけないの。ユエが、」
「あらあら、まだお熱が下がりきってないんですよ?大人しく寝ていましょう。ね?」
父さまと母さまにあいたいなんて、言ったから
きっと言っちゃいけなかったんだ
だからメイファは遠くに行っちゃった
あったかくてやさしくて、
ずっとそばにいたかったのに―――
月璃の4歳の誕生日。
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