現在 / [ガルス] 月璃、闖
「―――あ」
「何?どしたの?」
「ねこ」
野蛮な界隈の薄汚れた一角に、小さく身じろぎする生き物を見つけた。
生まれてまだ間もないその仔猫は、それでも近寄ると僅かに頭を持ち上げる。
「アー大分弱ってるねソレ。どうせすぐ死んじゃうだろ。放っとけば?」
飄々と言ってのける相棒を睨みつける。
手を伸ばすと、そのぬくもりを求めて震える体をすり寄せてきた。
「まさか拾ってくつもり?」
「だってまだ生きてる」
「……ま、別にイイけどね。月の気の済むようにしたらいーよ」
この手にもすっぽりと収まる程の体を持ち上げると、小さく一声、みい、と鳴いた。
生きていることを精一杯証明するかのように。
結局、猫は死んだ。
弱りきった体では与えたミルクもろくに飲むことも出来ず、翌朝には冷たくなっていた。
「泣くくらいなら最初から拾わなきゃよかったのに」
「……泣いてない」
服の袖で目をこする。
「結局苦しいの長引かせちゃっただけかもね」
「………苦しくても、生きたかったのかもしれないじゃないか」
そう、聞こえたんだ。あの時。
小さな声で鳴いたあの声が、生きたいっていう風に聞こえた。
ほんの少しでもいいから、ただ、ぬくもりが欲しくて。
土で汚れてしまった手の中は、まだあの小さな命の感触が残っていた。
日常のひとこま。
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