2年前 / [ガルス] 月璃
朝から若干熱っぽい感じはあった。
今日動いたらきっとヤバイだろうってことは容易に想像できた。
伊達に長年この身体と付き合ってるわけじゃない。
だけど今行動を起こさないわけにはいかない。
ずっと求めていた手掛かりにようやく辿りついたのだ。
じっとしてる暇はない。
僕にはそんな悠長に言っていられるだけの、時間なんて無い。
随分前に放った鳥が、昨日返ってきた。
手の中で消える前にソレが残したのは一つのキィ・ワード。
――ノルフィス
ずっとずっと遠い、遥か北の国。
そんなところに彼女がいるだなんて思いもよらなかった。
情報もほとんど揃ってない今、下手に動くのは避けなければならない。
僕が迂闊に行動を起こせば、ファミリーはきっと気づいてしまうだろう。
だから、使える手段は式のみ。
式の動きを把握できるのは、この世で僕ただ一人だけだったから。
熱が上がってきた。
多少足許は覚束ないが、大丈夫。まだやれる。
今ここには僕以外の人間は誰も居ない。
妙なところでカンの良い奴は、今朝方用事を言いつけて追い出しておいた。
気づけば止められることはまず間違いは無い。
力では絶対に敵いっこないのも分かっている。
向こうの言いたい事も分かるけれど、こちらにも譲れない一線がある。
これには僕の存在意義がかかっているんだから。
生きる事の意味なんて、本当は誰にも無いのかもしれない。
誰にも必要とされず生きている者なんて絶対に居ないと、言い切る事はできるのだろうか。
自分で動かなければ、きっと何も残らない。
不完全な命でも生を受けた以上、何らかの形を残したいと思うのは
分不相応で傲慢な願いなのだろうか?
廃屋になったビルの屋上に出る。
殺風景で吹きっ晒しのこの場所が、どうしてか不思議と好きだった。
鳥を使うのはいつも大体この屋上。
猥雑な地上と美しい空との境界に、消えてゆく鳥たちをずっと眺めているのが
無性に哀しくて、好きだった。
今日放つ鳥は、一羽だけ。
数は必要無い。たった一羽でも、僕の今ある力の全てを託すから。
必ず彼女の許にまで辿りついて
そして必ず、僕のところに戻ってくるように。
左腕の静脈部分に傷をつける。
いつもなら指先で十分だが、今回はその程度ではとても足りない。
滴り落ちる血液の下には、紙で折った白い鳥。
ソレは僕の血を吸っても赤くはならない。
代わりに僅かに輝きを帯びる。それはきっと僕にしか視えない、仮初の命の光。
やがてただの無機質な紙でしかなかったものは、膨らみをもってぱたぱたと羽根を動かし始めた。
だけどまだ、足りない。
目の前が一瞬暗くなる。きっと血の気はとうに引いてしまっている。
ギリギリの限界まで、血を流し続けて
この力無い身体の代わりに翔び立ってゆく白い鳥を見届けた後
朦朧とした意識の中、辛うじて止血を施して―――
そこで、記憶は途切れる。
身体が宙に浮くのを感じる。
億劫ながらも重い瞼を開けて確認する。
何を考えているのか、相変わらずよく判らない表情。
一言二言、何か口にしているようだ。
だけど上手く聴き取れない。
聞こえるのは丁度耳にあたるところからの鼓動だけで
そしてそれは酷く、安心できるものだった。
マナを探してる時の月璃。
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