フェリード/赤白 > crimson phantom 7 「心の闇」
-- Update :2001-09-08 --
少し前 / レンカ、BJ、ジョシュア
久し振りにスラムの外に出た。
滞在していたのは10日にも満たない間だったというのに、身体は随分とスラムの空気に慣れてしまっていたようだ。
フェルドの活気に満ちた明るさが、何となく居心地が悪い。

現在レンカはリヴァイレッドに向かっている。
BJの母親の墓参りが目的なのだが、例によって嫌がる彼に無理矢理くっついて来たのだ。
そして今はもう一人、同行者がいる。スラムに居たジョシュアという牧師だ。
BJは墓がどこにあるのか知らないようだった。それで彼に案内を頼んだという話らしい。
その牧師がBJとどういう繋がりなのか、レンカは知らない。
何故かつねに鳥籠を持ち歩いている。胡散臭いことこの上ない。


途中、BJは何処か手頃な店に寄って装備を整えたいと言ってきた。
そしてふと思い出したように聞いてくる。
「そういえば、前から気になってたんだけど。お前のその銃ってさあ、一体何なわけ?
 今までそんなん見たことねーんだけど……。弾とか、いらねーんだろ?」

いつかは聞かれると思っていたが、遂に来たか、という感じだ。
かつてレンカと共に仕事をしてきた仲間は必ずと言っていいほどその疑問を口にしてきた。
だが正直なところ、持ち主の彼自身でさえよく解らないのだ。
「さてね。なんか気付いた時から手許にあったってカンジなんだけど」

レンカにはその仕組なんて物はさっぱり理解できないのだが、どうやらこの銃は精神力を源としているようだった。
意志の力によって銃口からエネルギー弾が発射される。
威力も自在に調節でき、威嚇程度のものから、建物一つを木っ端微塵にするものまで思いのままだ。
もっともその場合、かかる精神的疲労は威力に比例して甚だしいものなので、滅多に使うこともなかったが。

他の武器を使ったときは、何故だか苛々して落ち着かなかった。どうやら精神面にも大きな影響を及ぼしているようだ。
そのことを少々危険に思わないでもなかったが、何にしろ彼にとってもっとも扱いやすいのは、この得体の知れない謎の武器なのだ。


「だけどさー、ホントに良かったわけ?アイツ置いてきて」
「大丈夫だろ。外には出るなって言ってあるし、アニタも付いてることだし」
くれぐれも一人にしないよう、念を押してある。ガレットの件もあったので、彼女自身も迂闊な行動はとらないだろう。
「ふーん。まあ、それもあるんだけどねー……」
BJは意味ありげにニヤニヤと笑っている。
「……なんだよ」
「イヤイヤ。何といってもようやく再会できたイトシイヒトな訳じゃん?カタトキも離れてたくないんじゃないかなーって」
「オヤ?ラブな話ですか?」
ジョシュアが何故だか話に割り込んできた。
「いやー、青春ですねー……。『一生離さないぜ…オマエのこと』とか言ってたりするんでしょうかねー」
「そーなんだよー。もうオアツイのなんのって。『嬉しいわ…ずっと傍に居てネ』……なんちて!キャー!
 ……っておい、待ってくれよー」
なんだか勝手に盛り上がっている二人を無視して先に歩き出す。いちいち相手にしていたらきりがない。

彼女を連れて行かないのには訳がある。
あまりあちこち連れ回して疲れさせるのが嫌だったというのも勿論あるが、しばらく、距離を置きたかったのだ。

シエルはおそらく気付いていない。彼の中にあるどす黒い感情。
破壊欲とか支配欲、そういったものが時々不意に沸き起こる。
それが恋愛感情から来るものならばまだいい。だが、そうではないことが薄々判ってきた。
もっと黒い、自分の奥に眠る闇。
そんなもの、絶対に見られたくはなかった。

シエルはレンカに対してあまりにも無防備で、それはある意味嬉しくもあったのだが。
いつか彼女を傷つけてしまう、そんな考えが頭にこびりついて離れない。
少しの間、離れて冷静になることが必要だ、そう思ったのだ。



どうやら難しい顔で考え込んでいたらしい。
ふと気付くと、BJが黙ってじっとこっちを見ていた。
「……何見てんのよ」
「―――お前さあ……」
頭を掻きながらBJは言う。
「なんか引っかかることとか気になることがあるんなら、オニーサンに話してみなさいよ。聞いてやるからさ」
「誰がオニーサンだ。別に何もねーよ、そんなもん」
「どうだか。お前ずっと調子悪いの隠してたんだろ。シエルの奴嘆いてたぞ?
 ダメじゃない、好きな子に心配かけるようなことしちゃあ」
痛いところをついてくる。
「……頭痛えのなら、もう治ったよ」

BJはあまり信じていないようだった。
前科があるだけにそれも仕方がないとは思うが、何もまた嘘を言っているわけではない。
頭痛は前ほど気にならなくなっていた。
回復したためか、それとも身体が痛みに慣れてしまったためなのか、はっきり判らないところではあったが。

むしろ悩みのタネは他の所にあった。
記憶が、飛ぶのだ。
ふとした瞬間に自分が何をしていたのか解らなくなるときがある。

以前からその傾向はあった。
一度記憶を失っているためか、その後遺症とおぼしき物がちらほらあることはあったのだ。
物を覚えるのが苦手だったし、ごくたまに記憶が途切れることもあった。
だがほとんど気にならない程度のことだったのだ。

それがここ数日で急激に頻度を増している。おそらく、シエルと再会した頃から。
この先のことを考えると不安を覚えずにはいられない。
いつかまた、記憶を失ってしまうのではないか、そんな恐怖は常につきまとっていた。

このことはBJにもシエルにも言っていない。
彼らを信頼していないわけでは無論ない。
だが、言ったところで心配をかけるだけだし、言ってどうにかなる訳ではないことも判っていた。
彼らにしてみれば水臭いと思われるかもしれないが、余計な心配をかけたくはなかった。

今はまだ、大丈夫だから。
そう自分に言い聞かせていた。


やがて一行は港に辿り着く。
しばらくはこの国ともお別れだ。
住み慣れたフェルドの街が、なんだか酷く遠く感じられる。
まるで彼の居場所などどこにもないのだと―――全身で拒絶されている、そんな気がした。
赤視点。ちょっとおでかけ編。
8へ続きます。
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