少し前 / [ノルフィス] 菖蒲(ミザル)、桔梗
不意に身体がぬくもりに包まれた。
耳元で囁く、声。大丈夫だよ、と。
「何も心配しなくていい、大丈夫だから……落ち着いて」
周囲の嵐が少しだけ静かになる。
ずっとずっと、欲しかったのはこのぬくもり。無償のあたたかさ。
涙がとめどなく溢れてくる。
私たちはずっと二人で居たのに、いつもいつも独りぼっちだった。
最初から一人でいるよりも、それはずっと深い孤独。
彼にこんな風に抱き締められる事で、やっと
やっと私たちは―――
もう、いい。
もう充分だ。
私は充分すぎるほどに満たされた。
最期にあなたに逢えて良かった。
無形の刃を自らに向ける。
だが次の瞬間、その手は静かに阻まれた。
「…………どう、して……?」
彼は静かに私を見つめる。
「あなたにも、判るでしょ……? 私は罪にまみれてるの
罪の上に立って、これ以上生き続けることなんて、できない……」
例え誰が赦してくれたとしても、私は私を赦せない。
……少なくともあの人の隣で笑っていくことなど、できないはしないから―――
続きます。
Copyright (C) 2020 kohituji. All Rights Reserved.