ベルドラ/吸血鬼 > やわらかな闇 
-- Update :2009-01-01 --
現在 / クローディア、ソロ
いつの間にか眠ってしまっていたようだ。
薄闇の中ぼんやりと、拡散していた意識をかき集める。
僅かに身じろぎしてしまい内心慌てたが体に回された腕は変わらずそこにある。
……大丈夫、起こしてはいない。

普段なら普通に目覚めている時間帯。半日ほど前にしっかりと睡眠もとっていてそんなに眠いわけじゃない。
今こんな状況にあるのは半ば無理矢理引き込まれたからで、こういうことは珍しくはなかった。
彼女の隣に居る男は呆れる程に眠りが浅く普段どうもよく眠れていないようで、たまに予定外の時間に倒れるように眠り込む。
一人で眠ればいいものを何故だか彼女まで巻き込まれる。これには男なりの理由があるらしいのだが、彼女はどうにも釈然としなかった。
彼女の意思は男の行動の前に置き去りにされることが多い。だけどそれを不快に感じないあたり、重症だなと思う。

気づかれない程度に身をよじり、彼女は男の寝顔をじっと見つめた。
(寝てる時は可愛い顔してるだなんて……)
こんなの反則だ。
あまりの無防備ぶりに、いつだったか思い余ってこっそり背中に落書きなどしてみたことがある。
後の仕打ちが酷かったのでもう二度とやろうとは思わないけれど。

数え切れないほどの夜を共に過ごしてきたが、こんな穏やかな時間ばかりではなかった。
最初から彼女の意思は何処にも無く、訳も判らないまま流されるままに生きてきた。
当初は男に対して憎しみの感情すら抱いていた。同じ寝顔に対して、殺意を覚える程に。
寝首を掻こうとしたことも一度や二度ではない。
当時でなくとも今であっても、それを実行に移すことは然程難しいことじゃないのに。
それが出来ない自分に戸惑いもあった。
生きる手段であるとか他に寄る辺が無いとか、そんな理由は後から付け足したに過ぎない。
極限に近い混乱の中でなんとか導き出した答えに、彼女の心はひとまずの安定を取り戻している。

「…………」
不意に男が目を覚ます。
目覚めて自分を見ている彼女を不機嫌そうに一瞥し、回していた腕に力を込めた。
今度こそ本当に身動きがとれなくなる。
やがて安心したように彼は再び眠りに落ちるのだが、彼女はがんじがらめにされたまま、困惑と安堵の入り混じった不可思議な感覚に身をゆだねていた。
平和にぎゅうぎゅう。
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