ベルドラ/吸血鬼 > 30センチの距離 
-- Update :2008-05-25 --
現在 / クローディア、ソロ
夜の闇が静かに町を覆い始める頃、彼女は連れの男と二人で通りを歩いていた。
この町に来てから数日、いまだ目新しいものが多くついきょろきょろと気を取られてしまう。
その度に隣の男に冷たい視線で睨まれているが、そんな態度にももう慣れてしまった彼女はその程度では動じない。
最も度重なってくると不機嫌も頂点に達してしまうので、程々のところで歩みに集中する。

「ねえソロ、どこ行くの?」
何も言わずに宿から連れ出され、そのまま大人しく後をついてきた。
行く先などある程度は予想はついていたが、聞いてみたのはなんとなく沈黙が寂しくなり声を聞きたくなったから。…なのに。
「飯」
返ってきたのはあっさりすぎる一言のみで、会話はそれで終わってしまう。
彼女にはそれが不満でつい唇を尖らせた。相手には見えないように。

とはいうもののこういった沈黙は嫌いではない。
相手が何も喋らないでも彼女を気に掛けているのが、長い付き合いの中でなんとなくだが分かってくるようになっていたから。
その意味するところが「勝手にうろつくな」だとか「余計なものに気を取られるな」だとか、そういった内容のものなのだとしても。

普通に歩いているつもりでも二人の足の長さの違いは絶対的なもので、彼女はやや急いで足を動かさなければ先を歩く男との距離はどんどん広がってしまう。
(はぐれちゃうのは絶対、あたしだけのせいじゃないもん…)
そうは思うが口には出さない。出したら最後「お前の足が短いのが悪いんだろ」とかそういった意地の悪い返答が返ってくるのは間違いがない。口調や表情まで想像できてしまうのが一層憎らしかった。
だからこれは一つの予防策。そう口の中で呟きながら、彼女は連れの男の上着の裾を掴んだ。
その瞬間彼はちらりとこちらに目を向けたが、それ以上は特に気にした様子もなく文句も言われなかったので、彼女はそれを許可と受け取る。
指先に触れる布の感触は、それだけでどこか安堵感を与えてくれた。
穏やかな日常のひとコマ。
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