少し前 / リュカ、エリオル
何かがいつもと違っていた。
いつもならすぐにこの部屋にやってくる筈なのに、今日はその気配は無い。
若干賑やかな、騒がしい空気も伝わってきた。
………誰か一緒なんだろうか。
その予想に不愉快な気分を覚えつつ、仕方なく階下におりてゆく。
廊下で忙しなく移動している母親とすれ違った。
「……ああ、珍しいねあんたの方から来るなんて。
マチルダ帰ってるよ。お友達もつれてきたみたい」
やっぱり、ね。
まあ会わない訳にもいかないだろう。
扉を開ける寸前で仮面をかぶる。いつものように。
姉の隣にいたのは、黒い髪の女。若干年齢は幼いようだが。
…………どこかで見た顔だな。
そう思った瞬間、数ヶ月前の光景が甦る。
一度だけ、フェンメシューに行ったことがあった。
別件の旅程のついでだが、姉が前から読みたいと言ってた本を届ける目的で。
彼女の居場所を聞いた時に答えた女。………コイツだ。
覚えていたのはそいつの姉の呼び方がひっかかった、とかそんな理由だけども。
……そうか、わかった。
こいつが「エリちゃん」だな?
訳のわからない対抗心がムクムクと沸き起こってきた。
「どうもこんにちは。初めまして」
ニッコリ笑って挨拶する。飽くまでも笑顔を崩さずに。
「……あれ?ええと、初めましてじゃない……ですよね?」
どうやら向こうも覚えていたらしい。戸惑い気味にそう言ってきた。
「え?そうだっけ。全然覚えてないけど」
にこにこニッコリ。鉄壁の仮面。
向こうはひたすらクエスチョンマークをとばしている。
……ざまを見ろ。
エリオルちゃんと初めて会った時。
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