1年前 / マチルダ
塵煙が舞い、視界が閉ざされる。轟音がとどろき、声も届かない。
遠征に出て三日目、迂闊にも隊からはぐれてしまった。
不意の敵襲に迎え撃った自軍。恐らく多大な被害は被ってはいない。
その混乱の最中、気付けば周りに誰も居なくなっていた。
―――まだそれ程遠くには行っていない筈
息を整え、気を落ち着かせる。多少の動悸にはこの際目を瞑ろう。
……大丈夫。大きな怪我は負ってはいない。
この場で自分のすべきことを思い出す。
自分のちっぽけな腕で人を救えるなどとは思わない。ただ、手助けくらいは出来る筈だから。
足手纏いになってはいけない。
先ずは合流しなくては。
目を瞑り、意識を集中して神の名とそれに続く呪文を口にする。
閉ざされた目蓋の裏、右手の方向に微かに光が見えた。
……あっちだ。
相変わらず視界は最悪だった。
曇天の中、先程からの雨のせいで周囲には靄が立ち込めている。
だけど目指す方向に、必ず自軍はいる。そう、信じて。
ぬかるみかけた土を踏みしめ、歩を進めた。
唐突に耳元で風を切る音がした。
その直後、凄まじい爆音と共に突風が身体を打つ。
埃で汚れた外套が翻る。
煙にやられないよう、なんとか庇いながら目を開ける。
もうもうと立ち昇る煙の中、すぐ近くで人の気配がした。
―――味方? それとも、敵……?
判断がつかない。何も見えない。
声が聴こえる。でも何を言っているのかよく聴きとれない。
味方であれば何も問題は無い。だけど、敵だったら……
―――敵、だったら……
ゆっくりと、足が動く。
煙の中に手を伸ばす。
朧に見えている人影が、僅かに動く。
―――あなたは、誰……?
戦場にて。
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