フィル・ディア/羽人魚 > it's a small world 5
-- Update :2006-07-07 --
現在 / キリエ、月璃
「―――まったく物好きだね。こんな活きが悪いの拾ってきて、一体どうするつもりなの」
「活きって…。元気が無いのは仕方ないじゃないか。あんなとこにずっと閉じ込められてたらさ」

ひんやりとした水の感触に、働くことを止めていた思考が少しずつ戻ってきた。
いつの間にか手首の鎖も外されている。
逃げようという意志すらも封じていた、威圧感だらけのあの檻も、もう無い。
環境の変化に何が起こったのかと、ただ戸惑うばかりだった。

「大丈夫?少し狭いだろうけど、すぐに動き回るのも危ないから。ちょっとの間我慢しててね」

そう言って覗き込んできたのは、これまで傍に居たあの人とは違う存在だった。
自分と同じくらい…いや、むしろ少し年下にも思える子供。
見たところ悪意は感じない。少なくとも、自分を害そうとしているようには思えない。
乾ききった鱗が、水の気配に歓喜を示す。
久しぶりに生き返った気分だ。

「………あたし……?」
「心配しなくても、落ち着いたら帰してあげる。それとも、どこかに行く途中だったとか?」
「どこか……」

どこに行くつもりだったのだろう。
何も知らず、ただ闇雲に飛び出してきた。
宛てなんて無い。
彼が何処にいるかなんて、なんにも知らない。

「ねえ、アンタの居た所ってもしかしてフィル・ディアってとこ?」
「…どうして、知ってるの?」
「やっぱりそっか。いや前にさ、そこ出身の子に聞いたんだ。羽根の生えた人魚がいるって。
 アンタのことでしょ?」

懐かしい国。きらきらした国。
故郷とは違うけれど、それも同然だった。
居心地のいいあの場所で楽しくしあわせに生きてきて、
これからもずっとずっとそれが続くのだと信じて疑わなかった。

「どっちにしろ、無謀だよ。アンタみたいのが一人で外に出てくるなんてさあ…
 こっちの世界は多分、アンタが住んでたとことは違って怖くて汚いところも沢山あって」

―――所詮、世界が違うんだよ

彼の言葉と重なる。
途端、涙と感情が堰を切って溢れ出す。

「……住む世界が違うって、そんなにいけないことなの?」

仲のよい人たちには言えなかった。
言ってもどうにもならないことくらい、分かっている。余計心配をかけるだけ。
会ったばかりの親切な人。そういう相手だからこそ、吐き出せたのかもしれない。

「あたしバカだからよくわかんない。世界ってなに?どうして傍に居ちゃダメなの?
 セカイが違ったら、……好きになっちゃ、いけないの?」

気付いていた。
時折どこか遠くを、懐かしむように見ていたこと。
もしかしたらもっと大事なものを持ってる人なのかもしれない。それでも、

ただ、傍に居られることが嬉しかった。
終わりが来るなんて思ってもいなかった。


「永遠」なんて無いって知ってたけど、きっと分かってはいなかったんだ。
続きます。
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