ガルス/J.H.P. > JUNKY HEAVEN 2
-- Update :2010-02-14 --
6年前 / 乱、加那、朔良
「ラーーン、起きてーーーッ!!」
けたたましい声と共に急に圧し掛かってきた重力に、色んなものが飛び出しそうになる。

「……ってめ、なんつー起こし方してくれんだッ!」
「だってえ、何度声かけてもちっとも反応しないんだもん。死んじゃってんのかと思っちゃうじゃない」
そう言って口をとがらせむくれて見せる双子の妹は、未だ彼を下敷きにしたままだ。
「いーからさっさとそこ退けろよ、重くて潰れちま……」
力づくで退かそうと上体を起こすが、急に目の前が真っ暗になってふらつく。
「あ……れ……?」
「ほらほら、急に起き上がったりしちゃあ駄目よう。貧血だいぶ酷いらしいんだから」
その貧血患者に向かってタックルをかましてくるこの妹は果たして鬼ではなかろうか。
そんなことを思いながら周囲を見渡し、全く見覚えの無い部屋だということにようやく気が付く。
「…………何処だここ」
「サクラんち」
あっさりと返されたその名前にもさっぱり覚えが無い。
ひたすら怪訝な顔をしている片割れをしばらく眺めた後、不親切な妹はようやく状況を話し出した。
「あたしたちさ、家から逃げてきたじゃない。途中でヤな奴らに絡まれたけどなんとか振り切った、とこまではいいよね。その後あたしが発作起こして倒れちゃったからここらへんはよくわからないんだけど……多分乱が人目につかないとこ見つけて隠れたんだよね?そこにサクラが通りがかったの。乱その後すぐに気を失っちゃったんだけど、入れ違いであたしが目え覚めたのね。それで、いたいけな兄妹を匿ってくれないかとカシコク交渉したのよ。さてそんなわけで二人は無事保護されて今に至るのでした!」
話を聞いているうちにだんだんと記憶がよみがえって来る。
最後のあたりはかなり切羽詰っていて記憶も定かではないが、確か、見知らぬ人物に向かって発砲したような覚えが―――あれが「サクラ」ということだろうか。おそらくこの部屋の主の。
だとしたら自分は、順番はともかくとして助けてくれた命の恩人に向かって銃を向けていたということになる。そう思い至って眩暈が一層激しくなった。
「ラーン……」
妹が情けない声を上げる。これでも心配してくれているのだ…とは思う。
相変わらず彼の上に乗っかったままではあるが。
「……信用できるのかよ」
一度は殺意を向けてきた相手を助けるのに全くの裏が無いと言い切れるのか。
こうして現に助かっている以上疑いを持つのは気が引けるが、自分たちの身は自分たちで守らなければならない。
「大丈夫、サクラは悪い人じゃないよきっと。あたしの勘」
根拠も無く自信たっぷりに言いのける。不思議と彼女の勘はよく当たるものだからタチが悪い。

「あらァ、お兄ちゃんのほうもお目覚めかしら。調子はどう?」
「あ、サクラー。乱生きてたよー」
軽いノックとともに現れた部屋の主を見遣り、一瞬反応に困る。
様相といい服装といい一見女のようだが矢鱈とでかい。声も女にしては若干低い…気がする。
「ホラやっぱり迷ってる。サクラねえ、こう見えて男の人なんだって」
「やだもう加那ちゃん、簡単にバラしちゃったらつまんないじゃないの」
ウフフアハハと二人微笑み合っているこの光景は一体なんなのだろう。
「それでね、さっきちょっと話してたんだけど、あたしたちしばらくここにご厄介になるのはどうかなって」
「……は……?」
「勿論タダ飯食わせる気は無いわよ?それなりにしっかり働いてもらいますけどね」
「家事全般はあたし得意だよー。乱にはお使いとか力仕事とか、体動かすことどんどん押し付けちゃえばいいよね」
「正直すっごい助かるわあ。ここんとこホント猫の手も借りたいくらい色々溜まってててんてこ舞いだったんですもの」
「下の部屋とかちょっと凄いよね。あれは片付け甲斐ありそう……ってそうだあたし片付け途中だったんだ、いけないいけない」

「……ほんと、明るくて元気な子よねえ、加那ちゃん」
嵐のような勢いで飛び出していった加那を見送り、サクラは微笑ましく呟いた。
「もっともさっきまでは空元気ぽかったけど。あなたのことほんとに心配してたのよ、あの子」
「え……と、」
ほぼ初対面も同然の相手と二人になり、気まずさが押し寄せる。
真に初対面時には銃を向けていたのだから、どんな顔をしていいのかも分からない。
対する相手は余裕の笑顔だった。内心何を考えているのか読み取りづらい。
「……助けてくれて、ありがとう。それと…その、……いきなり撃ったりして、悪かったと思ってる」
「ちゃあんとお礼も謝罪も言えるのね、上出来。昨夜のことは…まあ状況が状況だったし、何事も無かったし、反省もしてるようだし?今回は水に流しておくわ」
寛大な許しの言葉に安堵を覚えつつも微妙に警戒心を解こうとしない彼を、サクラは面白そうに眺める。
「アタシのことが、信用できない?」
内心を見透かされたようで思わず怯んでしまう。
「まあ、当然っちゃあ当然よね。アタシだってあんたたちを完全に信用してる訳じゃあない。最初っからすんなり受け入れられても、逆に困るもの」
言っていることは解るようで解らないようで、なんとも形容しがたい。
「だけど人手が無くて困ってたっていうのも事実なのよね。あんたたちは安全な居場所が欲しい。利害が一致してるんだから、とりあえず共生して様子を見るっていうのも悪くはないんじゃないかしら?」

暫く考えてみたが、結局彼は同意することにした。
下手に自分を信用しろと言われるよりもずっとすっきりしているし納得も出来る。
このサクラというのがどういう人物なのか何を生業としているのかさっぱり判らないが、正直そんなことはどうでもいい。
加那と自分がもう何かに怯えることなく生きられる場所。
乱にとって重要なのは、ただそれだけの事なのだ。
続くかもしれない続かないかもしれない。
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