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昔々、ある国に一つの幸せな家族がありました。
裕福なお父さんと優しいお母さん。そして一人の娘が暮らしておりました。
しかしそんな幸せな暮らしも長くは続かなかったのです。
ある日、お母さんが病気で亡くなってしまいました。
娘は悲しくて、毎日泣いて暮らしました。
「元気だすのよー…。そうだ!ボクいいこと考えちゃった」
お父さんはそんな娘を見かねて、新しいお母さんを迎えることにしました。
やってきた継母は耳が長くて背が高い、銀髪の無愛想な人でした。
そして二人の娘を連れていました。
上のお姉さんも背が高く金髪で、赤い服を着ていました。
下のお姉さんは色気タップリのナイスバディーでした。
「そいじゃあボク、おしごと行って来るねー」
お父さんはそう言い残し、遠くの国へ出掛けていきました。
そしてその日から娘の悲しい生活が始まったのです。
「フム。この家には余計なものが多すぎるな。
まずメイドを雇っている金が無駄だ。クビにしてしまえ」
「エッ それではこの広いお屋敷は誰がオソウジするのでしょう……?」
「無論決まっている。お前がやるのだ」
そうして継母はメイドを全員辞めさせ、変わりに娘を召使いのようにこき使いました。
「アアッ……! ヒドイです〜……」
娘はサメザメと泣きました。
だけどちゃんと働かないとムチがピシリと飛んでくるのです。
継母のムチはとても痛いので、我慢して一生懸命働きました。
ある日、上の姉がソラマメを食べているときのことです。
「おおっとマメがこぼれてしまった」
ソラマメは床一面にいっぱい、バラバラと散らばっています。
「ん〜暖炉の中にまで飛び散ってしまったな。これを拾うと汚れて後が面倒だ。
ん?ああ、ちょうどいいところに来た。そこのソラマメを片付けといてくれ」
姉は通りがかった娘に命じました。
「……ハイ……」
娘は何故私が…と思いましたが、継母のムチが怖かったので仕方なくソラマメを拾いました。
灰まみれになった娘を見て、姉は言いました。
「ああ、よく似合っているじゃないか。さすがだな。
よし。今日からあんたはシンデレラだ。あんたにピッタリのよい名だろう」
その日から娘はシンデレラと呼ばれることになりました。
シンデレラとは、"灰かぶり"という意味なのです。
そんなある日、シンデレラに悲しい知らせが届きました。
お父さんが旅の途中で亡くなったというのです。
「ボクはお空から見守っているから、強く生きるんだよう〜…」
という言葉を残し、お父さんはお月様になってしまいました。
その日を境に、継母と姉たちのシンデレライジメは益々エスカレートしていったのでした。
「思うのだが、この屋敷はデカイわりに部屋数が少ないな。私の蔵書がおさまりきらない」
既にもう3部屋を図書室にあてがっていたのですが、継母の本好きはそれに追いつかないようです。
継母はシンデレラに向かっていいました。
「第一君にあんなに大きい部屋は勿体ないと思われる。そこでだ。今使っている部屋を私に提供することを要求する。いやこれは命令だ」
「エッ ……だけど、それでは私は一体ドコに寝れば……?」
「ムッ? 口答えをするな。屋根裏部屋にでも寝ればよかろう」
継母にまたもやピシリとムチで打たれ、シンデレラは泣く泣く屋根裏部屋に行きました。
元シンデレラの部屋を片付けていた下の姉が、衣装箱をひっくり返すと素敵な服がいっぱい出てきました。
「あら、シーちゃん結構いい服持ってたのねー。でも着ても汚れるだけだし服が可哀相よね?もっと有効利用しなきゃー」
そう言って下の姉はシンデレラの服を全て売っ払ってしまいました。
「ウフフフ。これでいっぱい宝石が買えるわー」姉はウキウキです。
けれどシンデレラの方は大層落ち込みました。
服はお母さんが作ってくれた、どれも大切なものばかりだったのです。
「ヒドイわヒドイわー……」
シンデレラは悲しくてしくしくと泣きました。
それを見てまた継母が「鬱陶しい」と言ってムチでしばくのです。
こうして日々は過ぎてゆきました。
継母は安楽椅子に座って読書に耽り、たまに怪しげな研究に精を出しています。
上の姉は政治がどうの景気がどうのと難しいことを言ったかと思えば、不意に愛の名言を吐いたりしています。
下の姉はイイ男とイイ宝石を探しにふらふらと街へ遊びに行っています。
みんなとても楽しそうです。ただ一人、シンデレラを除いては。
シンデレラは忙しい掃除やらの途中で、彼女たちの楽しげな様子をいつも羨ましそうに眺めているのでした。
見つからないように壁からこっそりと覗いているのですが、鋭い継母にはしょっちゅう気付かれ、ムチでピシリされてまた悲しくなるのでした。
そんなシンデレラにも、少しだけ楽しみがありました。
それは屋根裏部屋から街の様子を眺めることです。
元々裕福な家だったので、街中が見渡せる高台に屋敷は位置しており、屋根裏ということもあってとても見晴らしがよいのでした。これは思わぬ発見です。
中でも楽しみなのが、若い恋人達を眺めることでした。
「アラ?あの緑頭のカレは……。マア、旅芸人の彼女とはヨリを戻されたのですね……。先週ケンカ別れしたままだったからチョット心配していましたが。
ヨカッタです。これはメモしておかなければ……!」
いつしか、シンデレラは恋人達の観察日記をつけるようになっていました。
幸せそうな彼らを見ていると、こっちまで心がホンワカしてくるのです。
「イイナア……。私もいつかあんな風になりたいナ……。
愛しのカレと……キャア〜!」
シンデレラは想像力豊かです。なんといっても夢見る15歳乙女なのですから。
そして、彼女が一番憧れているのは、丘の上に立つ優雅なお城でした。
一度でいいからあの場所へ行ってみたい、いつもいつもそう思っていました。
けれど自分のみすぼらしい姿に気付き、そのたびに哀しくなるのでした。
続きます。
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