10年程前 / ユーク・ラキアス、カナリア、セスナ
―――血迷ったか若造、我らに誇りを棄てろと言うか
「勘違いしてもらっては困る。人間に頭を垂れろなどと、そのような事を言っているのではない」
―――同じ事よ。奴等が我らに与えた永きに渡る屈辱、それを今更水に流せと?
―――根付いた怒りや憎しみは、そうたやすく消えはせぬわ
「そんなことは判りきっている。
…では訊くが、このまま争いを続けてその先、我らに未来はあるのか?
竜族が栄華を誇っていたのは遙か古の事。今や人間は世界中でその勢いを増している。
その渦を退け消し去ることなど、もはや不可能だ」
―――我らの土地を、人間どもに汚されてもよいのか
―――奴めらの侵食を許し、我らにこのまま朽ちてゆけと、そう申すか!
「この状況が続けばそれも否めぬ未来だと、そう言っている。
力で押したところで人間共はいくらでも這い上がってくるし、踏みつければ踏みつけるほどにしぶとくなってゆく。
それは貴方方もよくご存知の筈だ、長老方。
高き知と強き力、その両方を有しているのが我ら竜族ではないのか?
さらなる高みを目指すのなら、もっと広くに目を向けてもいいだろう。
……人はとても興味深い。我らの知りえぬ未知の領域も限りなく有している。
この地は確かに我が竜族の聖域。だがそれを多少荒らされたところで、何がどう変わるという?
我らの誇りはその程度のことで、傷ついたりなどしない」
*
「―――黙れこのクソジジイとかさ、言いそうにならなかった?」
「まさか。忍耐はしっかり鍛えられてますんでね」
「額に青筋立ってるけど。あ、部屋の中では当たらないでね、暴れるなら外でやって」
「まあまあ、あまり煽らないように。本気で暴れられても困る」
「……それにしても随分と思い切った行動だったな。時期尚早という感が否めないでもないんだが」
「いずれにせよ、遅かれ早かれ叩かれるのは覚悟の上さ。あの偏屈どもがすんなり聞き入れる訳がないってこともね」
「全く。あんなおっかないじーさん達と真っ向から対決なんて、アタシなら絶対にごめんだね」
「……それで?喧嘩ふっかけてきたからには、勝算はあるんだろうな?竜王サマ」
「当然だ」
「認めさせてみせるさ、必ずね」
*
「平和な世界」というものを望んでいるわけではない
共存が目的などではない。それが次への足がかりとなればそれでよい
力が必要ならば手に入れる
ただ、あの日見た光景を
確かにこの手に掴み取りたいが為に
竜王が人間との和解案を言い出した時の話。
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