ヴァンセージュ/竜王 > 黒い男 
-- Update :2005-01-17 --
?年前(10代半ば) / ラキアス、黒竜
「―――随分と荒れているようだな」

自分しか入れない筈の部屋。声と同時に現れた姿に、しかし驚くことはない。
黒尽くめの男。少なくとも、並みの人間などではないことは確かだろう。
流石に初対面の時はかなり訝しんだものだが、この相手と会話するのは既に数度目となる。

「それほどまでに憎いのか、人間が」
「今更な問いだなそれは。所詮俺達と連中じゃ根本から違う。元々相入れないモノ同士なんだよ」
「ふうん…? だが見たところお前は、お前のその憎悪は、…もっと別のものの様に思えるんだがね?」
「………何が言いたい」

言って相手を睨め付ける。威嚇したところで動じる相手ではないことは分かっていたし、両者の間の力の差がとても太刀打ち出来るようなものではないことも理解していたが。
多くのことを見透かしたかの様な態度ではあったが、それに関しては然程腹立たしくも感じない。そういう存在なのだろう、と思う。
最初にその正体を訊ねた時、『お前たちと同じ名を持ち、しかし全く異種の存在』という返答がかえってきた。それが正確にどのような意味をもっているのか、彼には判らない。

「―――今はまだ……」
黒い男は問いには答えない。
「『その時期』では無いんだろうよ。…お前はまだ若い。時が来るのを待つとしよう」

青二才のヒヨッコ、と、そう言われたような気がして腹が立つ。しかしそれもまた事実なのだろう。過去に比すれば確かに彼の地位も腕も上がったが、未だ足りない。まだまだ遠く及ばない。目的とする場所に。

「一つ、言っておく」
何をしに来たのか、恐らくただ様子を見に来ただけなのだろう。既に立ち去る体勢に入っていた男は、最後に思い出したかのように付け加えた。
「お前のその、根本に眠っているモノを消し去ってしまわないようにな。
 自らが真に求めているのが何なのか、辿り着きたいのは何処なのか。それを見誤ったりしてくれるなよ?」

―――何が、言いたいのだろう。何を知っているというのか?この男は。
呼び止めようとして彼は相手の名を知らないことに気づき、数度目の邂逅にしてようやくそれを訊ねることをした。

「俺に名など無いよ、若き竜の王子。
 ……ただ、そうだな。知人からは黒竜と、そう呼ばれてはいるがね」

来た時と同じように、黒い男はかき消すようにその姿を隠した。
後に残るのは、ただ張り詰めたような静寂ばかり。
竜王子の様子を見にやってきた黒竜。
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