イズルビ/鬼 > 花の絆 
-- Update :2004-11-13 --
1-2年位前 / 凛花
「アタシはアタシのルーツが知りたいんだ」
最初にそう口にしたのはもう何年前のことになるだろう。


物心ついた頃から既に彼女には父親は無く、母一人の手で育てられていた。母はそこらの男衆に引けを取らないほど気が強く厳しい女で、父親が居ないからという理由で彼女が気に病む隙も与えられない程であった。
一度も見たことのない相手に対して情念や思慕は浮かんでこない。自分に男親は必要ない、そう思って十数年を生きてきた。今更になって父への愛が芽生えたとかなどと言う理由ではなく、自分をこの世に生み出したのがどんな人物か、不意に興味が沸いた。それだけの事。

閉鎖されたと言っても過言ではない里で育ち、決められた仕事だけをして生きていく。外の世界は知る必要がない。そんな人生で終わるのが気に食わなかったということもある。
いや、父親のことは単に理由付けに過ぎなかった。動き出すきっかけが欲しかったのだ。目的も何もない状況で闇雲に飛び出すまでに彼女は無謀ではない。


母から得ることのできる父の情報はごく限られていた。
ほんの三年にも満たない間の夫婦、しかもその婚姻は家が決めたものであり、両親の間に深い愛情は無かった。それが芽生える前に絆が途切れたのだ。

家柄と血筋が重んじられるこの閉鎖された空間に於いて、父は敗者だったと言っても良い。
約束された地位を生まれながらにして用意されていたにも関わらず、たった一つの力を持たぬが故に彼は日陰の存在となったと聞く。

『地位とか力とか、そんなものじゃないんだよ』
いつだったか母が口にした言葉を思いだす。
『あの人が欲しかったのはそんなもんじゃない。望むものを手に入れる為に、あの人はこの里を出て行ったんだ』
母もそれを父に与えることはできなかったのだと、そう言う。
両親の仲は決して冷え切ったものではなかった。男と女、夫婦というよりもむしろ友人関係に近かったらしい。
自分は恋愛には向いていないのだと、母は笑って言った。


何処で何をしているのか。
求めていたものは手に入れられたのか。
果たして生きているのか死んでいるのか。

この里が嫌いな訳ではない。ただ彼女はもっと色々なことを見ておきたかった。
父親の足取りを辿る、それを行動に移すために、彼女は生まれ故郷にしばしの別れを告げる。
凛花さんの自分探しの旅の話。
続きます。
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