フォレスタ/月人形 > 月下人形 
-- Update :2001-12-17 --
約1年前 / ルーシュ、ハーディス
月のきれいな夜に、ぼくは生まれた。
その時のことははっきりと覚えていないんだけど、ハーディスはぼくが森の中で寝ているところを見つけたって言ってた。
生まれ方からしてぼくは他の人形と違うんだ。
どんな人形だって『居て欲しい』って真剣に願う人がいて、そうして生まれてくるのに、ぼくは誰にも望まれてはいなかったんだ。


ハーディスは人形師で、これまでぼくはいくつもの人形が作られるのを見てきた。
満月の夜、ハーディスはプラムの森に出かけていく。人形の種を見つけるためだ。
それはキレイな光の粒で、てのひらにおさまるくらいの大きさで、少しだけあったかいんだ。
その光の粒は満月の夜にしかあらわれない。ごくたまに、空からゆっくり落ちてくるのを見たこともある。
まるで月が泣いている風にも見れるんだ。『月の涙』っていう別名もあるんだって。
その粒をハーディスは大事にひとつずつ、小さな瓶に入れて持って帰る。
館の奥の部屋には、そうして集められた人形の種がいっぱい並べてある。
ぼくはそれを眺めるのがすごく好き。
ひとつひとつがどれも少しずつ、色とか大きさとか違ったりするんだ。

館にやってくる人達は、ほとんどがハーディスの依頼人。
人形を作って欲しいって頼みに来るんだ。
子供のいない夫婦とか、奥さんに先立たれたおじいさんとか、ひとりぼっちの暮らしをしてる人とか。
誰もみんな寂しい人なんだって、ハーディスは言ってた。
ひととおり話を聞いて、ハーディスは依頼人を奥の瓶の部屋につれていく。
少しすると瓶の中の光の粒が、一つだけ強く輝きはじめるんだ。それはもうきれいなんだよ。
それって依頼人の心とその人形の種が惹かれ合った証拠なんだって。
『私をあなたの人形にしてください』っていう、ココロなんだって。
だけど、時にはちっとも輝かないこともある。
それって、その依頼人の人が本当は心の底から人形を必要としているワケじゃない時とか、今回はぴったり当てはまる種が無かったとかなんだ。
そう言うときは残念だけど、ハーディスは依頼を断るしかないんだ。

そこから先は人形師としての本領発揮。人形の種をモトにして、ハーディスはゆっくりと時間をかけて人形を創りあげる。
この時だけはキギョウヒミツとか言って、ぼくにも作業を見せてくれないんだ。ケチ。
それにかかる時間もいろいろで、割とスグに出来ることもあれば一月以上かかったりすることもある。
この期間はハーディスもなかなか部屋からでてこなくって、ぼくつまらないんだよ。
だけどその時が来ると、ハーディスは新しい子を連れて部屋からでてくる。
みんなね、すっごくキレイな眼をしてるんだ。
そうして主人となる人に連れられて館をでていく。
みんなみんな、嬉しそうに、幸せそうに……。


人形にとってマスターの存在は絶対で。
傍にいられることが何よりの幸せで。
マスターのためなら本当になんだってやる。
正しいことも、そうでないことも。
マスターが死んでしまったりマスターに必要とされなくなってしまったときには、人形の存在価値はなくなる。
そして静かに消える。月に還るために。


あの子たちはみんな、とてもとても幸せそうで、だからぼくはすごくうらやましい。
だってぼくにマスターはいないから。
本当はぼくは人形なんかじゃなくって、森に捨てられた人間の子供なんじゃないかって思ったこともある。
だけどハーディスは、『それは違う。お前は人形に間違いない』っていうんだ。
ハーディスみたいな人形師は、人形からトクベツな波長を感じることができるんだって。よく分からないけど。
でも、ハーディスはそういうときに嘘をついたりしない。
だからきっと、ぼくが人形ってコトは本当なんだと思う。

人間でもなくって、完全な人形でもなくって。
だったらぼくは、一体なんなのかな……。

他の子たちはマスターと幸せになるっていう目的があって生まれてくるのに、ぼくにはその目的すらもない。
……なんのために生きていけばいいのか、分からないよ……。
そんなの人間はみんなそうだってハーディスは言ってた。
目的を探すため、一緒に居たい誰かを捜すために生きていくんだって。
それじゃあぼくは、どっちかっていうと人間に近いのかな。
人形のカラダをしてて、人間のココロを持ってる。
それがぼくってことなのかな。

人形でもなく人間でもない。男の子でもなく女の子でもない。
こんな不完全なぼくでも、誰か必要としてくれる人がどこかにいるんだろうか。


お月様はいつも優しい光で、寂しい時はそっと包み込んでくれる。
だけど先に進むのは、自分の力じゃないといけないんだ。
そう思ったから、ぼくは館を出て旅をすることにした。
ちょっと怖いけど、新しい体験とかできそうだしね。
そう考えるとなんだか楽しくなってきたよ、ぼく。


いつか、他の子たちに負けないくらい、幸せになってやるんだ。


「色んなものを見て、色んな人に出会って、そうして大切なものを見つければいい。
 お前は他の人形たちと違って、誰に縛られることもなく、自由なのだから……」
ルーシュ、旅立ち。
Copyright (C) 2020 kohituji. All Rights Reserved.