[ノルフィス] 現在 / マナ、花栄
白い布が、風にはためいている。
干したばかりの洗濯物たち。
一仕事終えてフゥと息をつき、地べたにとすんと腰を下ろした。
ぽかぽかと暖かくて、今日はとてもいい天気。
風もそよそよと気持ちいい。
この北の国にも、ようやく暖かさがやってきたみたい。
今日は医院もお休み、教団の仕事もきっと夜までは無いはず。
こんな気持ちのいい日には、自然と心がうきうきとなる。
何をして、過ごそうか。
家の周りをぐるっと歩いてみた。
春先に植えた種が芽を出し、小さな丸いつぼみをつけている。
明日あたり、きれいな花が咲いたりするかな。
裏の桜の木の横に、座っている人影が見えた。
こちらに背を向けていて、振り向く気配は無い。
足音を立てないよう、そろりと近づいてゆく。
傍まで寄って、後ろから思いっきり抱きついてみた。
なのに花栄は驚いた様子もなく、ただニヤニヤ笑っているだけ。
また、ばれてた。たまには驚かせてみたいのに。
隣に座ると邪魔だと言って頭を小突いてきた。
いっつもそう言うけど、それが花栄の口癖みたいなものだってこと、知ってる。
だから気にせずさらにすり寄って、読んでいる本を覗き込む。
字が小さくて凄く難しそうな本。
読んでるときっと眠くなってしまいそう。
本は嫌いじゃないけど、もっと綺麗な絵が沢山あるほうが好き。
そう言うと、花栄は読むのをやめてぱらぱらと本を捲り始めた。
開かれたところを何気なく見てみると、そこには筋肉のお化けみたいな凄く気味悪い絵が描かれていた。
思わずキャッて叫んでしりもちをつく。
花栄があんまり笑うので悔しくなって、こんなの全然綺麗じゃない。そういってそっぽを向いた。
すると彼は本をパタンと閉じて、おもむろに「人体の構造の美しさ」についてとうとうと語り始める。
………始まっちゃった。
言ってる内容ははっきりいって難しすぎて、ほとんど理解できない。
だけど花栄の話す低い声はとても耳に心地よい。まるで子守唄みたい。
加えて今日はぽかぽかと、暖かくて気持ちのいい天気―――
*
ふと気がつくと、いつのまにか花栄の膝の上に転がっていた。
見上げると彼は相変わらず本を読んでいる。
花栄の手が近くにあったのが嬉しくて、その指をきゅっと握り締めた。
―――そしてまた、幸せなまどろみに沈んでゆく―――
夫婦の日常。
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