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小さい頃は人並みに泣き虫でした。 だけども意地っ張りで、人に涙を見せるのが凄く苦手でした。 人前では我慢して一人隠れてシクシク泣く、そんな感じ。
12、3の頃、幼馴染みの少年がマチルダに言います。 一人で泣いたりなんかするな、と。 泣きたいなら俺の所に来い。それ以外の所で泣くのは許さない、と。 そしてその瞬間から、彼の腕の中だけが彼女の泣ける唯一の場所となりました。
17の時にその彼と婚約、そして時を置かずに彼は唐突にこの世を去りました。 マチルダは泣く事の出来る場所を失ってしまいました。 一人きりで彼の棺の前に居る時に流した涙を最後に、それ以来彼女は一度たりとも泣いていません。
感情は人並みにあります。 だけどどれほど哀しくても辛くても苦しくても、決して涙は出てきません。 泣かないんじゃなくて泣けない。 私が泣いてもいい場所はここじゃない、そう無意識に思っているので。
一人で居る時にはぼーっとしてる事が多いです。 何も考えずに、ただ景色だけを眺めてる。
彼女は死にたがっているわけではありません。 従軍司祭という仕事をしている時も、自分に出来る精一杯のことは必死でやっていいます。 ただ、死と隣り合わせの戦場において極限状態に陥った時、時折周りの音が何も聞こえなくなる時があります。 とても静かで、一瞬自分が何処に居るのか、何をしているのかさえ判らなくなる。 きっといずれ、命取りになる。
遠征から帰ってきた後、マチルダは眠りについたまましばらく目覚めない事がたびたびあります。 ただ寝てるだけですが。耳元でわめきちらしても叩いても何しても目覚めません。 とても深く長い眠り。 夢すらも見ないその眠りの中でだけ、彼女は安定しているのです。