架柊の外見白髪・緑目ですが、本来の色は黒・黒褐色です。 今の色は鬼の呪詛に因るもの。 これが、彼の当主の座を危うくした一因であります。 元々「次期当主」という身分だったため、彼は里のほとんどの者に知られています。 以前の黒髪・黒褐色目とは一変した今の姿を見たら、彼の身に何が起こったかなんて一目瞭然。 鳳桐家が鬼の襲撃を受けたことはどんなに隠してもすぐにバレるだろうけど、架柊が鬼の呪いを受けたことはほんの一握りの者しか知らないのです。 当主たる者が鬼の呪いを受けて、のうのうと生き残っている。そんな事が他の家のものに知られる訳にはいきませんでした。 少なくとも鳳桐家の長老にとっては。
長老ってのは架柊の祖父に当たります。架柊の父の、前の当主。 鳳桐家では当主の交代は先の当主の力が全盛期の時に行われます。 遅くとも四十前後で入れ替わります。力が衰えてきつつあって、尚『刀』の長の座に居座るというのは彼らにとってプライドが許さないのです。 だから祖父も三十後半くらいで当主の座を息子に譲り渡しました。 それゆえ全盛期ほどの力はないものの、彼の力はまだまだそこらの若い者には到底敵いません。 普段はほとんど口出ししないですが、彼は多大な発言力を持っており、その一言はとても無視する訳にはいきません。 何よりこの人、『刀』の家風の見本みたいな人で。プライドが高くて非常に頑固で融通がきかない。 (多分架柊はこのじさまの血を一番濃く引いてるっぽい)
架柊が鬼の呪いを受けたと分かった時、彼が当主になる事を誰よりも反対したのはこのじさまでした。 ていうか他の人達はむしろ当主になること賛成派で、このじさま一人だけが反対してたのですが。 当主(架柊の父)が亡くなった今、家の中で一番偉いのはじさまで。だから彼の意見はとても無視できない。むしろ尊重しなければならない。 無論じさまも、外見云々プライド云々だけで架柊が当主になることを反対してたわけではありません。 鬼の呪いが架柊に及ぼした影響は外見だけではありませんでした。 このことはおそらく他の者は気付いていなかったのですが、長い間『刀』の長を務めてきたじさまには勘付いてしまったのです。 架柊は、人には有り得ないほど鬼の気配を鮮明に感じることが出来るようになっていました。さながら、鬼が同属の気配を感じるかのように。 さらに鬼の力は彼に全く通じなくなっていました。言ってみれば人の身にあって鬼の気を宿した者。 それは鬼と対峙する者にとってはある意味好都合な状況なのですが、四光の、中でもとりわけ鬼を毛嫌いしている『刀』の者にとってはそれは耐えがたい屈辱。 『刀』思想の権化であるじさまにとっては、架柊はまさに許しがたい存在になっていたのです。
さて、当の架柊さん。周りがどうこう言おうが一向に気にしてはいませんでした。 ただ、赦せなかった。自らを陥れた鬼の存在が、非常に赦しがたかった。 力の差なんてどうでもいい。あの鬼を倒すこと…それだけが彼の心を占めていたのです。 そんな時ふと目にとまった宝具・蒼孔雀。それはその時、今までに無いほど光り輝いていました。 無意識のうちに手は伸びます。蒼孔雀は、驚くほど架柊の手に馴染みました。 どれほど力を入れても抜ける事の無かった鞘はすんなりと外れ、その刀身は蒼い光を放っていました。
その翌日、架柊さんは姿を消します。 そして宝具も無くなっていました。 鳳桐家は一時大騒ぎになりますが、彼の性格をよく知っている者たちはやがて一つの結論に達します。 彼は宝具を扱えるようになり、そして家族の仇である鬼を倒しに行ったのだと。 家族の仇ってのはチョット違いますが(要するに自分の気が済まなかっただけ)、他はほぼ正解。 そしてこのことをきっかけに、頑固なじさまも架柊が当主であることを認めざるを得なくなります。 ていうのも実はこのじさま、大層な「宝具」崇拝者でありまして。 普段から「宝具を使いこなせる者こそ、真の『刀』の導き手なのだ」と言ってはばからなかったので(笑) そういう経緯で、渋々ながらもじさまも認めたことにより、架柊は晴れて『刀』の当主となりました。
ちなみに今の彼の姿を知ってるのは、『刀』の家でもじさまはじめとする一握りの重鎮と、凛花さんのみ。 凛花さんなんだかちょっと前にバッタリ逢ったらしいです。 そいでもってこの時架柊さん今の里の状況とか、自分が当主になっちゃってる事とか知ったらしい。
里を出た後、架柊は彼の前に現れた鬼たちを片端から狩ってゆきました。 里に居た頃は依頼を受けた鬼だけを相手にしていたのだけど、今は違う。 目的の鬼の情報を得るため、そして蒼孔雀と彼自身の力をつけるために、数多くの鬼を倒さなければならなかったので。
鬼の呪いを受けたことにより、架柊は鬼の気配、力の大きさ、そしてどんな性質の力か…など手に取るように分かるようになっていました。 また、力の強い鬼の干渉を受けたことでそれに劣る鬼の妖力(この場合ほとんど)の一切が彼には通じなくなっていたのです。 しかし、鬼の呪いはこれだけではありません。夜毎の悪夢と時折襲う激しい苦痛。 それはどんどん彼の精神を蝕もうとしてゆきます。 ソレに飲み込まれてしまったら、残された道はヒトではないモノに堕ちてゆくのみ。 だけど自分にはどうしても遂げねばならない目的がある、その気力だけで架柊はなんとか持ちこたえていたのでした。
たった一人で幾度も死線を乗り越えて闘う架柊の成長スピードは、里に居た頃とはくらべものにならないほどでした。 しかし力はつけていったものの、肝心の鬼の情報は得られず。 何の手掛かりも無いまま、二年程が過ぎました。
架柊が四光の里を出奔してから二年後、今から三年前に架柊と小葉は出会いました。 小葉は鬼姫としての仕事の最中で、力を行使しているところを見られたために掟にしたがい架柊を消そうとします。 でも何故か架柊に力は通用しませんでした。 家を滅ぼした鬼に印をつけられていた架柊は、鬼の力を無効化してしまう体質となっていたためです。 一方架柊の方も小葉と出会って衝撃を受けます。探していた敵の鬼とそっくりな波動を、彼女の中に感じたからです。 それから二人は行動を共にします。 架柊は敵の鬼を見つけ出すため、小葉は長いこと縛られていた柵から逃げ出すために。
小葉が縛られている鬼姫という鎖は、彼女の里にずっと続いている風習。 代々鬼の力を持つ娘が存在する…というものですが、実のところこれは全て小葉自身です。 数百年前からずっと、鬼姫として生まれ鬼姫として生き、若くして亡くなりそしてまた新たな鬼姫として生まれる。 無論生まれる前の記憶などは覚えていませんが、鬼姫と呼ばれた娘は全て同じ魂を持つ者、でした。 根本を辿ればこの鎖にはとある理由があるのですがまぁそれは此処ではあまり関係ないのでおいといて。 一連の鬼姫の魂は、一人目以前にはまた別の姿をしていました。
ずっとずっと昔(おそらく三百~四百年ほど前←適当)、二人きりの純粋な鬼の兄妹が居ました。 仲のよい彼らはずっと一緒でしたが、あるとき妹鬼が人間の手によって殺されてしまいます。 兄鬼は当然怒り心頭、妹に手をかけた人間たちに復讐します。 その後妹の魂を探しますが、どれだけ探しても見つけることはできませんでした。 殺された妹鬼の魂は、天に昇らず地にも留まらず、一人の人間の娘の中にとりこまれていました。それが鬼姫。 以後数百年間、兄鬼は妹を探し続け、妹鬼は人間として生死を繰り返していました。
兄鬼の人間に対する憎しみは消えることなく、幾度と無く人間を手にかけ、そして次第に力を増してゆきます。 そして数年前。強大な力をつけた鬼が滅ぼしたのは、鬼内でもあまり近寄る者の居ない、四光の里の鳳桐家。架柊の家族でした。