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人間として歩き出す前は、央連の半妖として生きていた。 人から蔑まれ疎まれそれでもなお、人を愛さずにはいられなかった半妖。 それは彼女が彼女である前から定まっていたこと。
どれほど痛めつけられても傷つけられても、決して憎むことはしなかった。むしろできなかった。 それでもそんな生の中、彼女のことをちゃんと見て愛してくれる人も居た。 しかしそれも永くは続かない。 彼女は人の手によってさらにぼろぼろにされてしまう。
いつしか心は壊れていってしまう。 愛というモノが一体なんだか判らなくなってしまう。
時は流れ、一人の人物と出会ったことにより彼女は人間として新たな道を歩みだす。
しかし再び得た生の始まりは、今までと大して変わりのないものだった。 実験体として扱われ、彼女の人権などどこにも存在しない。 すでに壊れきった心ではもはや何も感じなくなってしまっていたけれど。
そんな中の小さな出会い。 自分を友達だと言ってくれる人。 自分に興味を持ってくれる人。 壊れきった心が少しずつ、カタチを取り戻してゆく。
今では家族とも呼べる仲間たちも居る。 自分は此処に居ていいのだと笑ってくれる。 何かできるようになると、手放しで褒めてくれる。 何もできない自分のためにあれこれ世話を焼いてくれる。
役に立ちたいと、未来に向かって彼らの夢のために何かしたいと思うようになった。
ラボに居たのは6年前から半年前までの5年間半。 肉体的には9歳~14歳くらいの間。 純粋な人間じゃないので成長も普通とは違います。
最初彼女は全く感情を表すことができませんでした。精神が壊れていたので。 それゆえ失敗作とみなされたわけですが、それでも全く何も感じないというわけではありません。
その時シャナ子になされていた研究は彼女の肉体に関わるもの。 ぶっちゃけるとこのヒト半妖時代から肉体再生能力ってものが尋常ではないんですね。 回復力が異様に強い。常人なら即死するほどの怪我でも生きてます。
つまり彼女の肉体がどのくらいの限界まで耐えれるかってのを見極めることが目的。 身体中を切り刻まれたり、猛毒・劇薬漬けにされたり焼かれたり色々。 何回も何回も何十回も彼女は殺されてます。通常の肉体なら。 その時は麻酔かけられて眠らされてるので意識は無いですが。 あったらいくら感情が壊れてるっていっても耐え切れないです。 再生が完了するまでは結構時間もかかるので(数日~数週間)、普段でも全身包帯してたり松葉杖だったりすることもしばしば。 そいでもって完治するまで強力極まりない鎮痛剤を投与され続けております。 そんな研究が彼女が脱走するまで密やかにずっと続けられておりました。
この研究内容は無論関係者以外極秘事項。 乱やら月璃やらは知ってますがね。知ったからこそ彼女を連れ出すことを計画・実行。 ……という感じです。
リハビリを続けることで、少しずつ少しずつ彼女は人間らしくなっていきました。 最初は何されても何の反応も示しませんでしたが、今では嬉しいんだなとか哀しいんだなとか怒ってるんだなとか、その程度は外からでも読み取れるくらいにはなりました。
シャナは普段自分の意思で行動するってことは殆ど滅多にありません。 ラボにずっと大人しく居たのも、ラボから抜け出したのも人に言われるまま。 今は乱さんとこでお世話んなってますが、大体彼にくっついてチョコチョコ動き回ってます。雛鳥みたいに。 実は彼女には予知能力みたいなもんが備わっておりまして、結構役に立ってるは立ってるんですが。
ある時シャナの誕生日だか記念日だか何かに、彼女は何か欲しいものとかしたいこととか無いか、と聞かれます。 他に何も望みなんてなかったけれど、彼女はひとつだけやりたいことを思いつきます。 ラボにいる、友達に逢いに行きたい。 最初思い浮かんだのは、ラボで同じように実験体だった同い年くらいの女の子。 彼女にもう一度会いたいと思います。 そいでその後、そういえばいっつもなんやかやと、色々持って来たりしてた男の人はどうしてるかな、と思います。 彼にも会えるなら会いたいな、と。
掻っ攫ってきたラボにのこのこ舞い戻るような真似して平気なんかと不安はありましたが、まあなんとかなるだろうといざ決行。(なんとかなったようです) お友達の女の子に逢えたかどうかは……ちょっと未定。彼女がいつラボ抜け出したかーにもよりますし。 その後彼には再会できました。そしてその時きれいな石を貰いました。 それ貰った時、シャナはポロポロ泣き出してしまいます。なんでか。 嬉しいんだか哀しいんだかよく分からないけど、ただなんか熱いものがこみ上げてきて。
最初はラボへ行くのはこの一回きりの予定、でした。 でもその後も時々、シャナは「ラボに行きたい」と言うようになります。 そいでできる限りそれは決行してるようです。
シャナが自らの意思で何かをしたいと言うのは、このラボお忍びだけです。
シャナの前身の半妖はずうっと長いこと生き続けていました。数百年くらい。 その間に色々ありまして、最終的に彼女の心はバラバラに砕け散ってしまってました。 黒竜さんが彼女を見つけた時には、ソレは『人を愛したい』『生きたい』という想いだけがこびりついた、残骸でした。 そんな姿になって尚、強く残るその想いに黒竜さんは興味を持ちます。 そいでその命をガルスに運び、紆余曲折を経てシャナが誕生したワケです。
シャナとして生まれた後も砕け散った心はそのままで、例えて言うならそれは割れて細かい破片になったりヒビが入ったりした鏡のようなもの。 感情はちゃんとあるんです。 ただ、「感情」を「表情」として映し出す役割を担う、心が砕けているのです。 もともとの像はちゃんと鏡の割れた破片に映っているのですが、断片だけではソレが何を映しているのか判らない。 表情がちゃんと表に現れない。 そういう状況です。
生まれて暫くの間は扱いがアレだったのでシャナは変化しません。 少しして彼女をちゃんと人としてみてくれる人たちに出会ってから、シャナは少しずつ変わってゆきます。 壊れた心のカケラを元のカタチに戻そうとします。 ゆっくり、少しずつ。ジグソーパズルをはめこむみたいな感じで。
あてはまるパズルのパーツがちょっとずつ大きくなっていくにつれて、彼女の表情は少しずつ変化が見られてきます。