海を愛し、海に愛された種族。 元々の祖は、海竜と人とが交わったものとされている。
完全なヒトではなく、その身は精霊と人との狭間にある。 海の加護を受け、長時間海中にいることも可能で、海の事故で命を落とす事は限り無くゼロに近い。 また海から遠く離れた地では、生きることはとても困難。
元々短命な種族で、人としての生を終えた後、その身は海の精霊へと変化する。 とりわけ幼くして命を落とした者は、より永くの時間を精霊として過ごす事になる。 またこの種族の眼は皆青い海の色をしているが、その色の深さと純度の高さにはばらつきがある。 深い深い純粋な、深海の海の色に近いほど、精霊としての力はより大きなものとなる。 海の精霊となった者たちは海の美しさを作るものの一部となって回遊し、また同胞達を愛し守護する力をも持っている。
ところが近年、この種族の精霊としての力に目をつけた魔物が居た。 最初はたいした力も持っていなかったが、脆弱な人の身でしかない彼らにとっては十二分に脅威であり、魔物は度々里を襲うようになる。 魔物は彼らを喰らいその精霊の力を我が物とし、どんどん力を増していった。 恐怖に怯えた彼らは魔物を必要以上に暴れさせないよう、自ら贄を差し出すようになった。 その罪悪感と自分たちの正統性を守るため、いつしか魔物は「海神さま」と呼ばれるようになる。 贄となった者たちは「海神さまのお力になりにゆくのだ」と教え込まれた。
魔物は一人喰らえば暫くの間は満足して大人しくなる。 そして、より強い力となる、深い眼の色をした者を好んだ。 贄に選ばれたのはそのような眼の幼い子供がほとんどだった。
この風習を暫く続けているうちに、海の怒りを買ったためかはたまた同胞の精霊の加護が薄れたためか、深い色の眼の子供が生まれる率は次第に減ってゆく。 そしてもう数十年の間、望む子供が生まれる気配はなかった。
魔物は飢えていた。 その飢えが頂点に達するかと思われた頃、ようやく待望の子供が生まれた。しかも同時期に二人。 族長の娘と、その従兄だった。 これでいつ魔物の要求があってもそれに応えることができる。 一族の者は安堵した。
その子供たちの世話は、一人の若者に託された。 恐ろしい魔物に喰われることを生まれながらに決められた子供。 若者は彼らの世話をするうちに、次第に愛着が湧いてくる。 そしてある日、若者は二人を連れ、眷属を捨てて逃亡した。
魔物は怒り、そして再び里を襲い始めた。