花人形の作り手である刈谷博士は、若い頃は京筑の人形師の許で技術を学びました。 やがて故郷であるイズルビに舞い戻り、学んだ技術に独自の方法を織り交ぜて改良・研究。彼独特の人形を作り上げるまでに到りました。 目的は定かではありませんが、最終的には自分の意のままになる軍隊をつくるつもりだったとかそうでないとか。 彼の作る人形は自我を持ち、そしてそれぞれ特異な力―――所謂超能力を持っていました。 博士は取り憑かれたように人形を作りつづけます。出来た人形は全部で十体前後。
博士が最後に作ろうとしたのは彼の集大成とも言えるべきもの。 手を触れずとも対象に力を及ぼす事ができる存在。念動力とか瞬間移動とかそういった類の。電撃生み出したり爆発を起こしたり衝撃波を与えたりなど。 でもそれを作るには力が大きすぎて、一体の人形にはとても収まりませんでした。 そこで人形を二つに分けることにしました。それが桔梗と、その双子の姉人形の菖蒲です。 力の源は桔梗の中にあり、それを自在に制御・操作する術を菖蒲が持っていました。
最初に作られたのは菖蒲。しかし無論一体ではまだ何の力も持っていません。 さて、この博士には息子が一人おりました。 博士の許にいつも居たというわけではないのですが、時々手伝いなどに来ていたようです。 自我を持ってはいたもののまだ未完成だった菖蒲は、博士の傍に常に居たため、息子とも接する機会が多かったようです。 やがて菖蒲は博士の息子に淡い想いを抱くようになりました。 ところが彼は、まもなく病気で死んでしまいます。 そして博士はその時作っていた人形に、息子の姿を映しました。
出来上がった人形――桔梗は、自我を持っていませんでした。 「力の器」であるために、余計な感情が邪魔だったためです。 それと博士の息子と同じ姿、というのも関係しているのかも。せめてもの親心? 菖蒲はその事を非常に嘆き悲しみました。 しかし博士の命令があると、菖蒲は桔梗の中の力を振るわなければなりません。 自らの意志も無く、ただ操られるがままに力を振るい人を殺めてゆく弟。 人形であるのでそれは当然といえば当然のことなのだけど、下手に自分が自我を持っているため、菖蒲にはどうしてもそれが耐えられませんでした。 そして彼女は暴挙に出ます。
菖蒲は、桔梗の力の大半を使いきり、博士を殺しました。 そして彼女自身の中にある封印を解きます。桔梗の心を解放するために。 自分の主人に対する最大の裏切りを犯したことにより、当然彼女も無事では済みません。 そのことも覚悟の上の行為でした。
目覚めた桔梗は全く別の土地にいました。 それまでのことは何一つ知りません。 憶えてない、のではなく、知らないのです。 色々な事がプログラムされているため、自分が人形であることとかは知っていますが。 以前に出会った人とか、体験した経験とか。そういうものは一切記憶がありません。初めから。 ただ、精神的な記憶は無いものの肉体的なものはあります。 だから懐かしいとかそういう感情はあるようです。